オトナ女子マンガ部! ―あのマンガについてもっと話そう―
第2回 ヤマザキマリ作品から 本当の自由を学ぶ の巻
Kiss LIVE!

「オトナ女子マンガ部!」とは……
1992年に創刊した「Kiss」。
23年の年月の中でいろんなマンガが連載されてきました。
とかく新刊ばかりが注目されがちな世の中ですが、≪名作は新作のみに非ず!≫
Kissで発表された作品がびっしり並ぶ、講談社のKissの書庫から、
編集スケ(在籍9年目)ツチ(在籍1年)
お届けするマンガ談義「オトナ女子マンガ部!」
今回はヤマザキマリ先生の担当編集まくらさん(Kiss創刊時から在籍)を迎え、
おしゃべりスタート!



【実は ヤマザキマリさんはKissデビュー!】
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スケ
まくらさんが、ヤマザキさんと出会ったのはいつくらいですか?

まくら
今の「Kiss」の前身でもある「mimi」という漫画誌があったんだけど、残念ながら休刊になることが決まって。じゃあ若手編集者であとは頑張ってみろっていう時期があって。
ちょうどそのころ、新人賞にジャングルの描写がすごい原稿が送られてきたんだよね。
紙も原稿用紙じゃないし、トーンも変わってる。でも「なんか面白いじゃん!」と盛り上がって…。


ツチ
それが、まさか…。

まくら
そう、ヤマザキさん。で、応募要項みたら“イタリア在住”
さらに「面白いね!」となり、デビュー。はじめてお会いした時はヤマザキさんも私も20代。
そのころの「mimi」はそんなわけで、規格外の新人さんが何人もデビューしたんだよねー。



スケ
そのあとはKissでマンガを発表しはじめて…ってかんじですか?

まくら
そうだね。内館牧子さん原作の連載をやったりとか。
育児もあって、イタリアから北海道に引っ越してきてからは、地元テレビのレポーターの仕事をヤマザキさんがやったりしていて、「なんか面白いことする人だな」という印象は常々、編集部にありました。


スケ
レポーターしていたなんて、知らなかったー。

まくら
確か、温泉番組とか、簡単イタリア料理の番組をやっていて、日韓ワールドカップの前には、一緒に盛り上がりましょう! と、今やちょいワルで有名なジローラモさんと一緒にKissでもサッカー関係の企画を掲載したりね。

スケ
それは、うん、意外なようで、意外でないかも(笑)。
ヤマザキさんの作品で一番世間のみなさんが知っているのは、おそらく『テルマエ・ロマエ』ですけど、それまでに色んなキャリアがあって、Kissで発表された作品もすっごく面白い。それを皆さんにぜひ知ってもらいたいですよね。


ツチ
ジャングルの描写からはじまった、ヤマザキさんのマンガ家ライフ…なんかしっくりくる…(笑)。


【自分の幼少期から生まれた「ルミとマヤとその周辺」】
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まくら
私がはじめて担当させてもらった作品は『ルミとマヤとその周辺』
それまでヤマザキさんは、『モーレツ!イタリア家族』『それではさっそくBuonapetito』などイタリア生活を描いたエッセイで好評を得ていたんですが、やっぱりストーリー漫画もいいから、ストーリーものを担当できてうれしかったですね。


スケ
この作品は、ヤマザキさんのご自分の幼少期をもとに描いているんですよね。

まくら
そうですね。ヤマザキさんはお姉ちゃんなので、ルミが自分かな。
ヤマザキさんのお母さんも、ほかのエッセイ作品にも書いていらっしゃるけど、本当にバイオリニストですし。


ルミとマヤとその周辺
ルミとマヤとその周辺 北国の町に住む、小さな姉妹ルミとマヤ。お母さんの仕事の時は2人で過ごしたり、祖父母の家に預けられています

ツチ
わたしは、1巻に出てくるてっちゃんの話がすきです。

スケ
わたしも! もともとあまり裕福でないのに、お父さんが炭鉱の事故で亡くなってしまって…。
その抑えられない悲しみが本当に切ない。


ツチ
貧乏だからこれしかないけど…ってお母さんが友達にあげたゆで玉子が臭いっていわれちゃうシーンも、子供特有の素直な残酷さがあって…。

ルミとマヤとその周辺 「このうれしさは たぶん 家族からしかもらえない…」のモノローグが胸にしみます

ルミとマヤとその周辺 どうしようもないせつなさのゆで玉子シーン

スケ
同時に、子供って家の経済状況や環境によって、自分がなにも悪くないのに理不尽な状況に置かれちゃう。だからといって親からの愛がないわけじゃない、っていうのがどうしようもなく心に迫ってくる。

まくら
いまも、いろんな家庭状況があると思うんだけど、ヤマザキさんや私が子供のころって、もっと経済格差がはっきりしていたし、露呈させられていた気がしますね。家に電話がなくて、連絡網の紙にそれがわかるように書かれていたり。

スケ
でも、ルミとマヤは優しい心と自由な価値観で、その押し込められている感じから飛び出そうしてる。

まくら
マンガの中に、ルミとマヤのお母さんが、ルノアールの絵の模写が壁に貼ってあるシーンがあるんだけど、お母さんの、お金で換算できるものや高価なものだけがすべてじゃないという価値観が見える気がする。
お母さんが、自分のやりたいバイオリンを続けることも含め、本当にきれいなもの・美しいものとはなにかをルミとマヤに伝えているから、ルミとマヤが物語の中で自由に向かっているんだろうと思います。


ルミとマヤとその周辺 ルミとマヤのお母さんの想い

ツチ
ヤマザキさんはなぜこれを描こうと思ったのでしょうか?

まくら
自分でこういう作品を読みたいと思って描いたって。その中には、今、話したことも含まれているかも。中学時代のルミとマヤの様子を描いた作品は『涼子さんの言うことには』というタイトルで、これも「Kiss」から発表されています。


【家族を語るエッセイ 「SWEET HOME CHICAGO」】
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スケ
『SWEET HOME CHICAGO』はヤマザキさんがシカゴに移住した時の生活エッセイであり、『テルマエ・ロマエ』が映画になっていく様子を一緒に追える楽しさもありますね。

SWEET HOME CHICAGO
SWEET HOME CHICAGO 引っ越し直後、すでに忙しそうなヤマザキさん…。

まくら
そうだね。時期的には『テルマエ』がヒットするかもという予兆があるときにシカゴに旦那さんの研究のため、息子さんの進学のために移住していた。

ツチ
ヤマザキさんと旦那さんの性格の違いも、本当におもしろかった。

まくら
そう、ヤマザキさんの家族構成って独特で、14歳年下の旦那さん、その旦那さんから14歳下の息子さん(旦那さんと息子さんは血はつながっていません)。
それぞれのジェネレーションが、育った環境もみんな違う中で家族になって暮らしていらっしゃる。


SWEET HOME CHICAGO SWEET HOME CHICAGO
ヤマザキ家、こんなかんじです

スケ
確かにあまりない家族構成かも。

まくら
だから、私はこのエッセイでは、もちろんシカゴでの暮らしも描いてほしかったんだけど、家族の中で母親という存在を担っているヤマザキさんという視点も、書いてほしかった。

ツチ
その視点でいうと、息子さんの進学事情もかなり詳しく書かれていますね。母親目線として。そして、進学に関するなにもかもが…日本と全然ちがう!

スケ
あと、進学先を国内っていう枠で全然考えていない。なにをやりたいか、どんな暮らしをしたいかが先決。自分たちが知らない広い世界や価値観を、息子さんの進学話を通してみせてくれるのは新鮮でした。

まくら
もちろん、長距離の引っ越しがものすごく大変だったり、毎日のごはんづくりに苦心したり、家族がいることで、まわりに合わせなくちゃいけない煩わしさはあるんだけど…。

スケ
牛角がシカゴにできたときのヤマザキさんの喜び、すごかったですよね(笑)。これでおいしい外食先にありつける…的な。

まくら
(笑)。でも、仕事でそれぞれがバラバラの場所にいたり、新しい場所での生活を選択したりする。その時には、きちんとバラバラになれる自由さを読むと、家族だから常に全員が同じ方向を向いていなくてもいいんだよ、って気持ちが楽になる。

ツチ
『テルマエ』関係も含め、ヤマザキさんがどんどん忙しくなっていく中で「そんなに仕事してどうする?」と旦那さんに詰め寄られるところもあるけれど、ヤマザキさんはやりたいことはしっかりやり遂げていますよね。

スケ
あっ、これは『ルミとマヤとその周辺』のお母さんと一緒ですね。ルミもマヤも、お母さんがいなくて寂しい時もあるけれど、同時に、好きなことをやっているお母さんのかっこよさを誇りにも思っている。それが大人になったヤマザキさんの母親としての姿、そのもの。

ツチ
わたし、ヤマザキさんがテレビに出始めたとき、まだ編集者でなくて、いち視聴者として見ていて、すっごい変わっている人だという印象を持っていました。『テルマエ』という作品の異質さみたいなのも影響していたんだと思いますけど。
でも、Kissから発表されている作品やエッセイを読んで、すごく常識的で、社交性もあり、方向性も自分で決めている、しっかりした人なんだ!と失礼ながら驚きました。


まくら
ヤマザキさんは、わたしがお付き合いさせていただいている漫画家さんの中でも1、2位を争う常識的な方ですね。あれだけ、一気に作品が注目されて、いろんなメディアに出て、騒がれても、全然、人としてもスタンスかわらない。忙しくても、時間は守るし、締切にも絶対遅れない。きっと世間一般のイメージとギャップがあるんだろうなと、いま、ツチさんの学生の時の感想を聞いて、改めて実感しました(笑)。

ツチ
…失礼な想像をしていて、すみません!

まくら
その忙しい中で、渋くて個性的な外国人を描かせたらこの人しかいない!って『スティーブ・ジョブス』の漫画化を依頼したんだよね。はじめは忙しすぎて、なかなかスタートできなかったんだけど、今、描かれているのをみると、やっぱりヤマザキさんしか「ジョブス」を描く人はいかなったって思う。


【シリア時代を描いた作品 「アラビア猫のゴルム」】
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スケ
『アラビア猫のゴルム』はデジキスというWEB漫画連載の作品ですね。

まくら
もうスケさんも、Kiss編集部の一員だった2009年くらいだよね。

スケ
今はもう一般的ですが、当時、WEBで無料マンガを配信して単行本にするという企画にKissでも挑戦しはじめて、このヤマザキさんの『アラビア猫のゴルム』、海野つなみさんの『くまえもん』、伊藤理佐さんの『おい クロタン!!』、柘植文さんの『野田ともうします。』で配信スタートしましたね。豪華執筆陣!

ツチ
なるほど。だからコマ割りも他の作品と少し違いますね。

まくら
当時、WEBマンガの黎明期だったのに執筆していただいたのはありがたかった。

スケ
これはヤマザキさんが、シリアに住んでいた時代に猫のゴルムと暮らしていたことを思い出して、描いているマンガですね。

アラビア猫のゴルム
アラビア猫のゴルム ゴルムはシリア生まれのノラ猫。ヤマザキさんと出会い、ヤマザキ家の一員になります

まくら
この時も旦那さんの研究でシリアに行っていたんじゃないかな。今、シリアはいろいろ政治的に大変なことになってしまっているけど、少し前にはこういう普通の生活があったんだな、ということもひしひしと感じる作品ですね。

ツチ
確かにそうですね。

スケ
猫マンガの視点で読むと、ゴルムのかわいさがすごい。

ツチ
このかわいさ、本当にリアルなんですよね。なんだろう。

まくら
たぶん、これ、デッサンがしっかりしているかわいさなんじゃないかな。
マスコット化した絵ではなく、デフォルメはしているけど、あくまでデッサンベースだから、リアルな仕草のかわいさが楽しめる。


アラビア猫のゴルム か、か、かわいいー!

スケ
あと、この作品はゴルム(猫)目線でヤマザキ家を見ているじゃないですか。それがおもしろいんだけど、これもマンガとしては、非常に客観的な目線が必要なテクニックですよね。

まくら&ツチ
やっぱりヤマザキさんって、偉大なる常識人!!


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